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新聞に載らない内緒話

晩夏のハエ
              
 夕刻といっても少々、時間が早すぎた。道路側の、大きく開いた合成ガラスに、野太い光線が束となって差し込み、店内を妙に明るくしている。
 もう夏も終わろうとしているのに。
 「ビール、ビール」と駆け込んでくる労働者たちが訪れるには、まだ間がある。
 口開けの、閑散とした酒場で酎ハイを注文した。エサ(つまみ、肴のことである。酔っぱらい用語かもしれない)をひとつ頼んでジョッキを傾ける。
 ハエが飛んでいる。
小豆大のそれがエサの皿にまとわり付く。右手の甲で払ったら、老店主がそれを見ていたのだろう。隣のテーブルの縁に留まったところに近づいて、右手でサッと掬い、その拳、手中にハエを収めると自動ドアを出て、中空に放った。
 「器用なものだな」と水を向けたら、
「私ら、子供のころはこんなもんでさぁ」と並びの悪い歯茎を見せて笑った。
 その昔、夏の食堂と言えば天井からハエ取り紙がぶら下がっていた。らせん状の粘着に数十匹のハエがこびり付いていたが、人々は意に介する様子もなく、それを見上げ平然と食事を終えた。
 まだ冷蔵庫が珍しいころ、家には蝿帳(はいちょう=死語か。ネットを張った食料保存箱)があり、食べ残ったおかずは捨てることなくこの中に放りこんだ。
「勿体ないからね」という、かっぽう着姿の母親の後ろ姿が色あせた銀塩写真のごとくよみがえってくる。
定量を飲み干して店を出る。僅かな涼風すら許さぬといった風情で、執念深い太陽がまだ、西端であがいている。
その沈む真下が、わが家である。ビルの谷間を抜け、空ばかりが広いJRの操車場脇を、真っ正面から熱波を浴びながら歩く。
もう夏も終わろうとしているのに。
「わたしなんぞは、夕陽みたいなもんで、沈むのを待つばかりですよ」
寺山修司の、エッセイ「馬敗れて草原あり」の一節を思い出した。
 身の丈の人生とは、こんなもの。ふり返って8勝7敗は、上出来であろう。
 暑すぎた夏はもうすぐ終わる。
晩夏のハエが、飛んでいる。

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