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新聞に載らない内緒話

桜の歌 
        
 3月下旬、地元の仲間と花見としゃれこんだ。温暖化で開花宣言も出たから、さすがに満開だろうと踏んだのが大間違い。寒の戻りとはこのことで、天気は上々だったが北風が強く、しかも桜は2分咲き程度で、早々に引き揚げた。もっとも、花見は建前で、本音は露天での一杯だから防寒服の襟を立てながら初期の目的は達成した。
 桜の名所は数々あれど、作家の池波正太郎さんが愛したのは、上野寛永寺・両大師堂の境内にある「御車返しの桜」だった。この桜は、1本の木に一重と八重の淡い紅色の花が同時に咲く。
そのいわれは、後水尾天皇が京都の常照皇寺に花見に行った折り、その美しさが忘れがたく、牛車を返してもう一度鑑賞したということになっている。後水尾天皇の皇子・守澄法親王が初代輪王寺門主となった縁で、この境内に植えられたようで、江戸名所花暦では28品のサクラの一つとしてあげている。
ここの桜は咲くのが遅い。上野恩賜公園や不忍池周辺の桜がひとしきり咲き乱れ、葉桜になった頃、池波さんはペットボトルに熱かんを詰め訪れた。陽が傾き、カラスがねぐらに帰るころ、静まりかえった境内でひとり桜を眺め、酒を傾ける。絶景であると、何かのエッセイに書かれていたと思う。
一度、興味本位で訪れたことがあるが、なるほど風情があった。
「花の雲 鐘は上野か浅草か」。
芭蕉の句である。こんな句も残している。
「初桜折しもけふは能(よき)日なり」。
 「咲(さき)乱す桃の中より初桜」。
 「両の手に桃とさくらや草の餅」。
そうそう、「草の餅」といえば長命寺の桜もち。吾妻橋からひとつ上流の桜橋のたもとの「山本や」。創業1717年(享保2年)、創業者の山本新六は長命寺の門番で、毎日のように落ちる桜葉を塩漬けにして餅に巻いた。
「ねがはくは 花のもとにて 春しなん その二月(きさらぎ)の 望月(もちづき)のころ」。
これはご存じ西行法師。作家・山田風太郎が愛した歌でもあった。

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