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新聞に載らない内緒話

嫌いなネクタイ 
             
高校を卒業して、すぐに就職した。学業不振と素行不良で、大学進学を諦めたこともあったが、早く一人前になりたくて、手に職を付けたかったのである。ある会社の営業担当になり、小さいながらも明るい、活発な職場で気に入っていたのだが、半年も勤めると辞めてしまった。
そんな理由で? と人は笑ったが、実はネクタイが嫌いだったのである。首回りを締め付ける、あのネクタイが生理的に合わなかった。
以後、いろいろあって大学に入学、卒業後に今の会社に入社することになった。幸い、ネクタイ不要(でもないが、特に強要されることもなく)の職場で、今日に至っている。
先日、ある年配の方と一杯やった。きちんと背広に身を固めた紳士である。席に着くなり「ネクタイ、外してもいいかな」と聞かれた。了解すると、スルスルと解き「あー、生き返った」と笑って、ビールをイッキ飲みした。
「まったく、こんなものを何で巻かなくっちゃいかんのかね」と言うから、こちらも昔を思い出して「まったく」と相づちを打った。
やはりネクタイが苦手だったという。ただ、係長に昇進したときに、その時の工場長に飲んだ席で「君はもう管理職なんだから」とくぎを刺された。そして工場長は自分のネクタイをその場で解いて、「これあげるよ。明日から着けてくるんだ」と言った。
「それ以来、ネクタイを手放せなくなってね。義務みたいなもんで、定年、定年延長、年金生活とずーっとネクタイを締めているんだよ。もちろんサラリーマン時代は順調に昇進して会社の幹部にもなれた。ネクタイのお陰とは思えんけどね。ただ、あの時のネクタイはとってあるよ」。
「でも、きっかけを作ってくれた、良い工場長ですね」と言ったら、「それが、しばらくしたら失脚して、どこかの工場へ異動させられた。その後、どうなったかとんとうわさを聞かなくなってね。良い人だったんだが」とつぶやいた。
まぁ、それだけの話で、いつしか話題は別のものに移っていった。
もうすぐ暑い夏がやってくる。最近は省エネと言うこともあって、ノーネクタイが当たり前になった。白の、開襟シャツに袖を通すとき、いつも自分の若かりし時を思い出す。   早く大人になりたかったが、その一方で幼心を抱えたままの、妙な感情の入り交じった抵抗感がネクタイを拒否させたのだろうか。今もってよく分からない。

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