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新聞に載らない内緒話

遠い正月
               
正月を迎えるとあって、障子の張り替えを思いついた。実は前年も障子紙を買ってきて試みたのだが、生来の不器用で、1年も経たないうちにはがれ始めた。猫が引っかいた跡もあり、重い腰を上げざるを得なくなったのである。
 その昔、古くなった障子紙を破くのは、年末の、子供の仕事で、姉(亡くなってしまったが)と人さし指で穴をあけては笑いあった。母親は姉さんかぶりで糊を溶いて、父親は刷毛を洗っていた。遠い思い出で、いつの間にか皆いなくなってしまった。年を取ったわけである。
 障子の桟(さん)を洗い流す。
 年末、宮城県東松島へ行ってきた。3・11以来、5回目になる。15年ほど前、仙台支社へ単身赴任をしていた。地元の人達に可愛がってもらい、楽しい3年間だった。その時の知人が1人、今回の震災で亡くなっている。ボランティアなど、仕事に追われていたこともあって経験したこともなかったが、今回ばかりは追善の意味も込めて現地に通っている。定年間近で、時間にも余裕ができたのである。
 東北、とりわけ仙台の冬は経験済みだが、出かけて寒風にさらされてみると思いのほか寒い。津波がすべてを押し流し、地盤沈下で農地は未だ海水に洗われている。索漠とした光景、淡い光は重ね着した防寒着、ウインドブレーカーを暖めるはずもなく、グイと襟を立ててみた。
 ふと出向いた民家で、寒風の中、老女が障子の桟を洗い流していた。
 「もうすぐ正月ですね」
 と、声を掛けたら
 「そうだね。でも、桟にこびり付いたヘドロを落とさないと障子も張れませんよ」
 と、老女は笑った。
 迂闊(うかつ)であった。ここでは、すべてがヘドロをかぶった。独特の臭いを落とさなければ、障子は家の中に持ち込むことができないのである。
 都会人の、安直な言葉が打ちのめされた格好である。
 「水たわし ヘドロ絡んで 障子替え」
 ふと浮かんだ拙句、である。
 真っ白い障子に、冬の、明るい日差しが差し込む。
そんな風景を取り戻せるのはいつだろう。
新しい年が始まる―。

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