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新聞にならない内緒話

よみがえる法廷
              
 一時、裁判所通いが日課であった。
閑職で、時間が自由になった。裁判所のロビーで「開廷表」をめくり、裁判開始時間・事件番号・事件名・法廷番号を確認すると、フラリ法廷に向かう。
多ければ1日に2、3の事件を巡って、持て余す時間を消化した。
 その日最初の、傍聴に選択したのは「大麻取締法違反」だった。
44歳の男は自宅で大麻所持及び大麻6本を栽培、逮捕された。30歳頃から大麻使用に手を染め、渋谷のセンター街で中近東風外国人から大麻を購入、所持するとともに育成を始める。
製造業の工場で働いており、肩書は部長。社員、パート、アルバイトを指示する立場でもあった。
大麻を吸引すると、「例えば映画などを見ていると臨場感が出る、日常がひどく楽しくなる」という。
 妻とはすでに離婚。17歳の長女、14歳の長男があり、定期的に会っている。
 お定まりの1人暮らし。なぜ大麻に手を出したのか、その理由を裁判官は何度も尋ねるが「寂しくて」「意志が弱く」ばかりで、それでは再犯の可能性が高いと裁判官は指摘した。
 検察の求刑は懲役1年6ヶ月であった。裁判長はそれでも本人の反省もあり、更正へのきっかけになればと執行猶予3年を付けて結審した。
今後は「温泉好きな母親と月に1度くらい、旅行へ行きたい。趣味を持ちたい。以前、少年野球のコーチをしていたことがあり、長男も少年野球でプレーをしている。もう一度コーチなどをやりたい」―
そう、痩せぎすの男は口にした。
職場は今回の事件にもかかわらず、ペナルティは課すものの解雇せず、雇用を継続すると本人に伝えた。上司の工場長(取締役)が判断した、と情状証人は付け加えた。
ただし、「この次、罪を犯したら、確実に刑務所行きなのだよ。分かったね」と裁判官は説諭、念を押した。
                 ◆
 覚醒剤を所持していたとして、警視庁組織犯罪対策5課は2月2日、西武や巨人で活躍した元プロ野球選手、清原和博容疑者(48)=東京都港区東麻布=を覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕した。これが第一報、である。
                   ◆
昔、傍聴した裁判の記憶がよみがえった。格段、珍しい風景ではない。前述した、被告人のその後は、もちろん知らない。 

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新聞に載らない内緒話

野球と、ベースボール
               
2月、プロ野球はキャンプに突入する。ファンにとって文字通りの〝球春〟で、今季の行方を楽しみにするムキも多かろう。
子供時代、「大きくなったら何になりたい?」と大人から尋ねられたものである。男子なら「プロ野球選手」、女子は「お嫁さん」と、いまどきの子供に比べたら可愛いものだった。とあれプロ野球選手とはそのくらい価値があった。昨今は野球賭博に手を出す輩(やから)も飛び出すくらいだから、子供たちの認識も変わってきているかも知れない。
先日、知人が「三田評論」のコピーを持ってきてくれた。慶応義塾の機関誌で明治31年3月に創刊されている。この大学には縁もゆかりもないが、知人は「お前の商売には関係あるだろう」とおもんばかってくれたのである。2002年(平14)8・9月合併号で、「野球とベースボールの話」という「三田演説会」講演録が掲載されている。
講演は山下大輔さんによるもので、同年6月25日に三田演説館(福沢諭吉建造の、日本初の演説会堂)で行われた。山下さんについては今さらだが、慶大卒、プロ野球大洋、横浜で活躍し、華麗な守備でならした名選手。大リーグ傘下でコーチも務めている。
なかなか読み応えのある講演録で、その一部にこんな記述があった。長くなるが山下さんの口吻(こうふん)とともにお伝えしたい。講演は、終盤に差しかかっている。
「最後に『少年の夢』と題して、あるアメリカ人が書いた文章を訳して、ここで読み上げてみたいと思います」
「カンザスに育った子供の頃、友達と魚釣りに行きました。ある夏の暖かい午後、そこに座って私たちは将来大きくなったら何になりたいかについて話し合いました。私は彼に『本物のメジャーリーガーになりたい。真のプロフェッショナルと言われるあのホーナス・ワグナー(殿堂入りした有名な選手です)のような』と言いました。私の友達は『合衆国の大統領になりたい』と言いました。私たち二人の夢は叶いませんでした」
「実はこれを書いたのは第三十四代合衆国大統領ドワイト・D・アイゼンハワーなんです。アイゼンハワーの幼友達が大リーガーになったかどうかわかりませんが、この人のこの言葉が『アメリカ人にとって野球とは何か』ということを、明確に語ってくれているような気がするのです」
こんなくだりもある。「ミラクル・メッツ」が登場する映画「オーロラの彼方に」(原題Frequency、2000年公開)に出てくるセリフ―。
 「(米国の)父親が子供に教えることは千年たっても変わらない。教えることは三つだけだ。それは憲法とロックンロールとベースボール」
 やはり「野球」と「ベースボール」は異なるようである。
 
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新聞に載らない内緒話

「七味五楽三会」
              
「一富士二鷹三茄子(なすび)」とは、縁起の良い初夢のこと。
 富士は日本一の山、鷹は賢くて強い鳥、茄子は事を「成す」。徳川家康が好んだ富士山、鷹狩り、初物の茄子。他にも、江戸時代の富士講に由るとの説もある。
 先日、この「一富士二鷹三茄子」を一度に味わってやろうと静岡市を訪ねた。頂戴したお弁当を開いたら、その片隅に煮付けた「茄子」が田楽風に鎮座していた(ついでに由比港に立ち寄り桜エビの沖漬け、かき揚げも賞味した。絶品である)。
 久能山東照宮の唐門をくぐったら「二羽の鷹」を発見した。
 あとは「一富士」だけである。世界文化遺産を構成する資産のひとつ、三保の松原へと赴いた。前日までの不順な天候も、この日は雲ひとつ無い、文字通りの日本晴れ。
海岸縁で、強烈な北風にあおられ、コートの襟はハタハタ鳴ったが、その見晴らしは絶景であった。紺碧の空、霊峰頂きにかかる雪、すそをあしらう万緑の松林。
三色一体。「まるで銭湯のペンキ絵。絵葉書そのものだね」と毒づいたら「地元のわたしらでもこんな富士山を見るのは今年初めて。ぜいたくをいうもんじゃない」とたしなめられた。
初春の吉兆である。「ありがたや」と手を合わせた。
「一富士二鷹三茄子」、その言葉のリズムの良さで人口に膾炙(かいしゃ)したのだろうが、そう言えばその昔、江戸の庶民は「七味五楽三会」と唱えたものだと江戸研究家の杉浦日向子さん(早世してしまったが)が話していた。略して「七五三」―。
「七味」とは、味を楽しむという意。昨今の、これ見よがしの高価なグルメではあるまい。旬の、フッと出合った小さな味、生活の味が1年に7回も舌上のぼれば本望、だそうだ。
「五楽」は「あぁ、今日は良い1日だった」という感慨。楽しい想い出が5回もあったらめっけもの、手のひらに乗るような幸せで十分だ。
「三会」はせめて3人の、〝友〟と巡り会いたい。親友などと大仰な事は言うまい。かすり傷のよう縁(えにし)でも、気持ちの良い人と話がしたいのである。
大晦日の夜に1年をふり返り、その年が「七味五楽三会」であったなら、「こんな目出てぇ年はないねぇ」と江戸の人は喜んだという。 
ふり返れば、良くも悪くも諦念(ていねん)の似合う年回りとなった。すべて山っ気も、娑婆っ気も抜けたようである。色落ちがあったり切りっぱなしであったとしても、使い古しの、木綿の手拭いのようなしんなりと、肌になじんだ1年を送りたい。
「七五三」―。
脈拍数を落として生きよという、江戸からの伝言であろう。

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新聞に載らない内緒話

正月の、マグロ
              
 JRの、特急「しおさい」に乗って千葉県銚子を訪ねた。
 マグロに、会いに行った。
早朝、銚子港の第1卸売場で入札風景を見学する。マグロ類漁獲量といえば静岡県、高知県、宮崎県あたりが常連と記憶する。オヤッと思ったのは、銚子といえばサバ、マイワシ、サンマのはずだがと怪しんだからである。
 東日本大震災で被災したここは今年4月6日、衛生対策や鮮度保持のため最新の設備を導入した「高度衛生管理型施設」として生まれ変わり「銚子復興の印」となった。長方形の、プレストレストコンクリート造り2階建て、延べ床面積は7366平方㍍。解体費用を含む総事業費は約23億円と関係者は胸を張った。
 これを機会にマグロ水揚げ時の見学が可能となり、「ならば」と腰を挙げた訳である。
 2階の見学通路に立ち、見おろす。プーンと立ち上がる香り、アルミ製の簀の子にならべられたマグロたちの眼は瞠目するようで丸く大きく、口を45度に開け、ゴロリ品定めを待っている。
 銚子港を出て真東に2、3昼夜。陸から1000キロほど彼方で捕獲された近海ものは刺股(さすまた)のように開いた尾を切り落とされ、買人がその断面をのぞき込む。キロあたり3000円から1万円で取引される、その身を「重量40キロ以上のモノは尾身の切り口で質を問い、それ以下は尾びれ付近をめくって判断する」。
入札を終えたそれを運ぶ、台車のキリキリという軋みがその王者ぶりをうかがわせる。この日の水揚げ、メバチ84本、カジキ12本、ビンチョウ20本と教えられた。
 「銚子でマグロとは初耳でした。勉強不足だったでしょうか?」
 関係者に尋ねると「ここは生マグロの水揚げなら日本でトップクラス。ただ、入札が終わればそのまま築地に行ってしまうので(マグロの)イメージがないのでしょうな」と笑った。
JR総武本線銚子駅から5分ほど、浄国寺という古刹(こさつ)が見える。その境内に句碑が建っている。
「枯枝に からすのとまりけり 秋の暮」
松尾芭蕉が、晩秋を詠んだ。実際にこの地を訪れた形跡はなく、この句碑は地元の豪商大里庄次郎と野崎小平次が、俳聖を追慕して弘化2年に建てた、という。
寂寥たる季節の終わり。そう言えばマグロ(鮪)も晩秋を経て、冬の季語である。
「そうですね。銚子の、マグロのピークは11月から1月でしょうか」と関係者の声が耳に残る。
マグロは正月の、至福であろう。

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